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岐阜地方裁判所 昭和48年(ワ)370号 判決

原告

イサム・ノグチ

右訴訟代理人弁護士

上村勉

右輔佐人弁理士

繩田徹

吉村悟

被告

伏屋重一

被告

伏重産業株式会社

右被告両名訴訟代理人弁護士

六川詔勝

中吉章一郎

右被告両名輔佐人弁理士

清水定信

主文

一  原告に対して、

1  被告伏屋重一は、金四七一七円とこれに対する昭和五九年九月六日以降支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を

2  被告伏重産業株式会社は、金五二万五四二〇円とこれに対する昭和五九年九月六日以降支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

二  原告の被告伏屋重一及び被告伏重産業株式会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の負担とし、その余は被告両名の連帯負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、原告において仮にこれを執行することができる。

五1  被告伏屋重一は、原告に対して、金四〇〇〇円の担保を供することにより

2  被告伏重産業株式会社は、原告に対して、金五〇万円の担保を供することにより

それぞれ前項(第四項)の仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告伏屋重一は、原告に対し、金五一六万七二四四円及びこれに対する昭和五九年九月六日以降支払いずみに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  被告伏重産業株式会社は、原告に対し、金一六〇七万八八九三円及びこれに対する昭和五九年九月六日以降支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告の被告伏屋重一及び被告伏重産業株式会社に対する請求を、いずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮に、原告の請求の全部又は一部が認容され、かつこれに仮執行の宣言が付せられる場合には、担保を供することを条件とする仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

(A 登録番号第三二六五二四号の意匠権の侵害について)

1  原告は、次の意匠権(以下、「本件A意匠権」といい、その内容たる意匠を「本件A意匠」という。)を有する。

(一) 意匠にかかる物品

照明用グローブ

(二) 出願日

昭和三八年三月六日

(三) 出願番号

意願昭三八―四八八〇号

(四) 登録日

昭和四六年一月一三日

(五) 登録番号

第三二六五二四号

なお、本件A意匠権には、次の(一)ないし(四)記載の類似意匠が付帯する。

(一) 類似一号意匠

(1) 出願日

昭和四六年四月三〇日

(2) 出願番号

意願昭四六―一四一九一号

(3) 登録日

昭和四八年一月一六日

(4) 登録番号

第三二六五二四号類似一号

(二) 類似二号意匠

(1) 出願日

昭和四六年四月三〇日

(2) 出願番号

意願昭四六―一四一九二号

(3) 登録日

昭和四八年一月一六日

(4) 登録番号

第三二六五二四号類似二号

(三) 類似三号意匠

(1) 出願日

昭和四六年四月三〇日

(2) 出願番号

意願昭四六―一四一九四号

(3) 登録日

昭和四八年一月一六日

(4) 登録番号

第三二六五二四号類似三号

(四) 類似四号意匠

(1) 出願日

昭和四六年四月三〇日

(2) 出願番号

意願昭四六―一四一九三号

(3) 登録日

昭和四九年一二月二三日

(4) 登録番号

第三二六五二四号類似四号

2  本件A意匠の構成

本件A意匠は、別紙意匠公報A記載のとおりの照明用グローブにかかる意匠であつて、その構成は、次のとおりである。

(一) 全体の形状は、正面、背面及び左右両側面において多角形状に表われるほぼ球形(ただし、上部と下部をわずかに欠いた形状。以下、「略球形」という。)であつて、上部と下部には、リング状の金具からなる開口部が設けられている。

(二) 右略球形は、一本の線条体を一二ないし一三回渦巻状に捲回してその骨格となし、その上に八枚の紡錘形をした半透明・無模様の薄紙を貼り合わせ、これで覆つて形成されている。

(三) 右の捲回された線条体は、正面・背面及び左右両側面(以下、この四面を総称して「周胴面」ともいう。)において、右に左に横方向をもつて斜行している。そして、各線条体相互の間隔や斜行する方向・角度には、規則性がない。

3  本件A意匠の特徴・要部

本件A意匠の特徴・要部は、右構成のうち、捲回された線条体が、その周胴面において右に左に横方向をもつて斜行している点にあるというべきである。すなわち、照明用グローブにかかる意匠において、本件A意匠を構成する(一)及び(二)の点は、本件A意匠の登録出願以前からすでに公知公用の普遍化した構成であるが、捲回された線条体が右に左に横方向をもつて斜行している点は、本件A意匠に先行する意匠には全く類をみないきわめて創作性の高い斬新な構成なのである。したがつて、捲回された線条体が、周胴面において右に左に横方向をもつて斜行している点に、本件A意匠の創作性・新規性があり、この点がその特徴・要部であるというべきである。

4  被告らの本件A意匠権侵害行為

(一) 被告伏屋重一(以下、「被告伏屋」という。)は、昭和四六年一月一日から同年一二月末日までの間、別紙イ号図面一及び二記載のような照明用グローブ(以下、それぞれ「イ号物品一」、「イ号物品二」といい、これらを総称して「イ号物品」ともいう。)を、国内において業として製造・販売した。

(二) 被告伏重産業株式会社(以下、「被告会社」という。)は、昭和四七年一月一日から同四八年七月末日までの間、イ号物品を国内において、業として製造・販売し、また昭和五二年一月一日から同年五月二一日までの間別紙ニ号図面記載のような照明用グローブ(以下「ニ号物品」という。)を国内において、業として製造・販売した。

5  イ号物品の意匠の構成

イ号物品の意匠は、別紙イ号図面一及び二記載のとおりの照明用グローブにかかる意匠であつて、その構成は以下のとおりである。

(一) 全体の形状は、正面、背面及び左右両側面において多角状に表われる略球形であつて、その上部と下部には、リング状の金具からなる開口部が設けられている。

(二) 右略球形の全体の形状は、一本の線条体を一七ないし一八回渦巻状に捲回してその骨格となし、その上に八枚の紡錘形をした半透明・無模様の薄紙を貼り合わせ、これで覆つて形成されている。

(三) 右捲回された線条体は、周胴面四面のうちの一面において、右に左に不規則間隔をもつて横方向に斜行している。そしてその他の三面においては、ほぼ広狭交互(二条一対)の平行状態を保つて、水平に配されている。

6  本件A意匠とイ号物品の意匠との対比

イ号物品の意匠は、本件A意匠の特徴・要部をその共通の構成要素とするものであつて、本件A意匠に類似し、その権利範囲に属する。以下敷衍して主張する。

(一) 照明用グローブにかかる意匠にあつては、本件A意匠のごとく、その骨格を形成する捲回された線条体が、右に左に斜行しているというがごとき意匠は、本件A意匠に先行する意匠には全く類例がないのであつて、本件A意匠はきわめて創作性の高い斬新な意匠であると評価すべきである。このように創作性の高い斬新な意匠にあつては、類似の範囲すなわち権利範囲も広く解すべきである。

(二)(1) しかして、イ号物品の意匠は、その周胴面四面のうちの一面において、捲回された線条体が右に左に横方向をもつて斜行している。この構成は、本件A意匠の特徴・要部となる構成と同一の(少なくとも酷似した)構成であつて、この構成は、右(一)に述べたような創作性の高い斬新な構成であつて、看者に対しても強い印象を与えるものといえる。

(2) 他面、イ号物品の意匠は、その周胴面のうちその他の三面において、捲回された線条体が、広狭交互(二条一対)のほぼ平行状態を保つて水平方向に配されており、この点で本件A意匠とその構成を異にする。しかし、イ号物品の意匠の右の構成は、照明用グローブにかかる意匠にあつては公知公用のありふれた構成であつて、なんら新規性のない構成というほかはなく、看者にさしたる印象も与えるものではない。

(3) そうとすれば、本件A意匠とイ号物品の意匠は、右(1)に指摘した共通性・類似性の故に看者に対して意匠全体としても同一の印象又は少なくとも類似した印象を与えずにはおかず、右(2)に指摘したごとき差異は、意匠全体としての同一の印象あるいは類似した印象を破るようなものではないことが明らかである。

(三) さらにまた、本件A意匠の類似意匠として類似二号の意匠が登録されていることからも、イ号物品の意匠が本件A意匠の権利範囲に含まれることが明らかである。

すなわち、右類似二号の意匠の構成は、別紙意匠公報Aの2記載のとおりであつて、本件A意匠とその構成のうち前記2の(一)及び(二)記載の構成を共通とするほか、捲回された線条体は、周胴面四面のうちの一面においては右に左に横方向に斜行しており、右各線条体相互の間隔、斜行する方向・角度には規則性がないものの、周胴面のうちのその他の三面においては広狭交互(二条一対)の平行状態を保つて水平方向にあるいはやや斜行して配されているというのである。

このような構成の類似二号の意匠が本件A意匠に類似するものと判断され登録されていることによつて、捲回された線条体の構成が周胴面のうちのいずれか一面において本件A意匠の前記2の(三)記載の構成と共通・類似のものは、本件A意匠の権利範囲に属することが明確にされたものといえる。

7  ニ号物品の意匠の構成

ニ号物品の意匠は、別紙ニ号図面記載のとおりの照明用グローブにかかる意匠であつて、その構成は、捲回された線条体によつて形成された骨格の上をあさ模様のレース紙によつて覆つてあるほかは、前記5の(一)ないし(三)に記載したイ号物品の意匠の構成と同様である。

8  本件A意匠とニ号物品の意匠との対比

(一) 類似関係

ニ号物品の意匠は、本件A意匠の特徴・要部を、その共通の構成要素とするものであつて、本件A意匠に類似し、その権利範囲に属することは、前記6に述べたところから明らかである。

なお、ニ号物品の意匠については、イ号物品の意匠と本件A意匠との相違点に加えて捲回された線条体によつて形成された骨格の上をあさ模様のレース紙で覆つた点を、本件A意匠との相違点として指摘できる。しかし、ニ号物品の意匠において、その表面紙の模様として用いられた右あさ模様は何ら創作性のない公知公用の模様であつて、このような全く創作性のない模様を表面紙に用いることによつて、前記6に主張したような捲回された線条体の構成における共通性・類似性にもとづく意匠全体としての類似性が否定されるものではない。

(二) 利用関係

仮に右(一)の主張が認められないとしても、ニ号物品の意匠は本件A意匠を利用し、表面地としてあさ模様のレース紙を付加したものにすぎない。すなわち、ニ号物品の意匠は、すでに述べたところから明らかなように、本件A意匠に類似するイ号物品の意匠と同一の骨格上にあさ模様のレース紙を表面地として付加したものにすぎないから、これが本件A意匠を利用するものであるとの評価を免れ得ないものであることは明らかである。

9  損害額

(一) 原告は、訴外株式会社尾関商会との間で、本件A意匠及びその類似意匠の実施につき次のような契約を締結した。

(1) 原告は、右訴外会社において、本件A意匠及びその類似意匠を実施することを許諾する。

(2) 右訴外会社は、原告に対し、本件A意匠及びその類似意匠の実施料として、これを実施した商品を国内において販売した場合には、その生産原価の三〇%を、国外において販売した場合にはFOB価格の三〇%を支払う。

(二) しかして、イ号物品及びニ号物品の生産原価は、いずれもその売上高の八五%に相当する価格であると解されるから、被告らの本件A意匠権侵害行為によつて原告が被つた損害額は、意匠法三九条二項に基づき、次のとおり算定すべきである。

(イ号又はニ号物品の売上高)×0.85×0.3

(注※) 右(一)の契約に基づき本件A意匠及びその類似意匠の実施に対して、原告が受けるべき本件A意匠実施料率

(三)(1) 被告伏屋が昭和四六年一月一日から同年一二月末日までの間に国内において販売したイ号物品の売上高は、合計金一八五八万五二〇七円であるから、被告伏屋の本件A意匠権侵害行為によつて原告が被つた損害の額は、右計算方法(18,585,207円×0.85×0.3)によつて算定すると、金四七三万九二二七円となる。

(2) 被告会社が同四七年一月一日から同四八年七月末日までの間に国内において販売したイ号物品の売上高は、合計金五九〇一万八八七二円、同五二年一月一日から同年五月二一日までの間に国内において販売したニ号物品の売上高は合計金三六万八三九七円である。したがつて、被告会社の本件A意匠権侵害行為によつて原告が被つた損害の額を右計算方法によつて算定すると、

イ号物品分

金一五〇四万九八一二円

(59,018,872円×0.85×0.3)

ニ号物品分

金九万三九四一円

(368,397円×0.85×0.3)

合 計

金一五一四万三七五三円

となる。

(B 登録番号第二五二八四八号の意匠権の侵害について)

10  原告は、次の意匠権(以下、「本件B意匠権」といい、その内容たる意匠を「本件B意匠」という。)を有する。

(一) 意匠にかかる物品

照明用グローブ

(二) 出願日

昭和三八年三月六日

(三) 出願番号

意願昭三八―四八七九号

(四) 登録日

昭和四〇年一〇月一三日

(五) 登録番号

第二五二八四八号

11  本件B意匠の構成

本件B意匠は、別紙意匠公報B記載のとおりの照明用グローブにかかる意匠であつて、その構成は、次のとおりである。

(一) 全体の形状は、周胴体の基本形状を幅対高さの比をほぼ一対一とする直方体の筒状とし、その上面及び下面においては、それぞれ偏平四角錐台が周胴面の高さの約二〇分の一の高さをもつて、上・下方向に突出しているというものである。

(二) この全体の形状は、正方形を形成するように、ほぼ直角に折曲した一本の線条体を、渦巻状に六ないし七回捲回してその骨格を形成し、その上を半透明・無模様の薄紙で覆つて形成されている。

(三) 右の捲回された線条体は、正面・背面及び左右両側面において、右に左に横方向をもつて斜行している。そして、各線条体相互の間隔や斜行する方向・角度には規則性がない。

12  本件B意匠の要部

本件B意匠の要部は、右構成のうち、捲回された線条体が、周胴面において右に左に斜行している点にあるというべきである。その根拠は、前記3において主張したところと同旨である。

13  被告らの本件B意匠権侵害行為

被告伏屋は昭和四六年一月一日から同年一二月末日まで、被告会社は、昭和四七年一月一日から同四八年七月末日まで、いずれも別紙ロ号図面記載のような照明用グローブ(以下「ロ号物品」という。)を、国内において業として製造販売した。

意匠公報A

意匠公報Aの2〈省略〉

14  ロ号物品の意匠の構成

ロ号物品の意匠は、別紙ロ号図面記載のとおりの照明用グローブにかかる意匠であつて、その構成は、以下のとおりである。

(一) 全体の形状は、周胴体の基本形状の幅対高さをほぼ一対一・五とする直方体の筒状とし、その上面及び下面においては、それぞれ偏平四角錐台が周胴面の高さの約二〇分の一の高さをもつて上・下方面に突出しているというものである。

(二) この全体の形状は、正方形を形成するように、ほぼ直角に折曲した一本の線条体を、渦巻状に一六回捲回してその骨格を形成し、その上を半透明・無模様の薄紙で覆つて形成されている。

(三) 右捲回された線条体は、周胴面四面のうちの一面において、右に左に不規則間隔をもつて横方向に斜行している。そして、その他の三面においては、ほぼ広狭交互(二条一対)の平行状態を保つて水平に配されている。

15  本件B意匠とロ号物品の意匠との対比

ロ号物品の意匠は、本件B意匠の特徴・要部を、その共通の構成要素とするものであつて、本件B意匠に類似し、その権利範囲に属する。このことは、本件B意匠とその全体の基本形状を異にするほかは、その構成を同じくする本件A意匠と、ロ号物品の意匠とその全体の基本形状を異にするほかは、その構成を同じくするイ号物品の意匠との対比について、前記6において主張したところと同旨である。

16  損害額

原告は、訴外株式会社尾関商会との間で、本件B意匠及びその類似意匠の実施についても、請求原因9の(一)に記載したのと同様の契約を締結している。したがつて、被告らの本件B意匠権侵害行為によつて原告が被つた損害の額も、同9の(二)に記載したのと同様の方法によつて算定すべきである。

しかして、

(一) 被告伏屋が昭和四六年一月一日から同年一二月末日までの間に、国内において販売したロ号物品の売上高は、合計金一五四万七五四二円であるので、被告伏屋の本件B意匠権侵害行為によつて原告が被つた損害の額を右計算方法

(1,547,542円×0.85×0.3)によつて算定すると、金三九万四六二三円となる。

(二) 被告会社が昭和四七年一月一日から同四八年七月末日までの間に、国内において販売したロ号物品の売上高は合計金三三九万九七八円であるので、被告会社の本件B意匠権侵害行為によつて原告が被つた損害額を右計算方法(3,390,978円×0.85×0.3)によつて算定すると、金八六万四六九九円となる。

(C 登録番号第二一一〇八七号の意匠権の侵害について)

17  原告は次の意匠権(以下、「本件C意匠権」といい、その内容たる意匠を「本件C意匠」という。)を有する。

(一) 意匠にかかる物品

照明用グローブ

(二) 出願日

昭和三五年七月一五日

(三) 出願番号

意願昭三五―二六六四〇号

(四) 登録日

昭和三七年三月一五日

(五) 登録番号

第二一一〇八七号

18  本件C意匠の構成

本件C意匠の構成は別紙意匠公報C記載のとおりであつて、これに特に説明を加えるべき点はない。

19  被告らの本件C意匠権侵害行為

被告伏屋は昭和四六年一月一日から同年一二月末日まで、被告会社は昭和四七年一月一日から同四八年七月末日まで、別紙ハ号図面記載のような照明用グローブ(以下、「ハ号物品」という。)を、国内において業として製造販売した。

20  本件C意匠とハ号物品の意匠との対比

本件C意匠とハ号物品の意匠を対比してみるのに、右両意匠は、そのいずれもが照明用グローブにかかる意匠であつて、その構成は、全体の形状、骨格を形成している線条体の構成等そのすべてにわたつて同一あるいは酷似したものであるというほかはないことは、別紙意匠公報Cと別紙ハ号図面を対比してみれば、自ずと明らかというほかはない。したがつて、ハ号物品の意匠が本件C意匠に類似する意匠であつてその権利範囲に属することは、きわめて明らかであろう。

21  損害額

原告は、訴外株式会社尾関商会との間で、本件C意匠及びその類似意匠の実施についても、請求原因9の(一)に記載したのと同様の契約を締結している。したがつて、被告らの本件C意匠権侵害行為によつて、原告が被つた損害の額も同9の(二)に記載したのと同様の方法によつて算定すべきである。

しかして、

(一) 被告伏屋が昭和四六年一月一日から同年一二月末日までの間に、国内において販売したハ号物品の売上高は、合計金一三万九六〇円であるので、被告伏屋の本件C意匠権侵害行為によつて原告が被つた損害の額を右計算方法

(130,960円×0.85×0.3)

によつて算定すると、金三万三三九四円となる。

(二) 被告会社が昭和四七年一月一日から同四八年七月末日までの間に、国内において販売したハ号物品の売上高は、合計金二七万六二四〇円であるので、被告会社の本件C意匠権侵害行為によつて原告が被つた損害の額を右計算方法

(276,240円×0.85×0.3)

によつて算定すると、金七万四四一円となる。

22  結 論

以上のとおりであるから、原告は、被告らの本件A、B、C意匠権の各侵害行為(不法行為)による損害の賠償として、

(一) 被告伏屋に対し、前記9の(三)の(1)、同16の(一)及び同21の(一)記載各金員の合計額である金五一六万七二四四円の

(二) 被告会社に対し、同9の三の(2)、同16の(二)及び同21の(二)記載の各金員の合計額である金一六〇七万八八九三円の

各支払いと右各金員に対する各不法行為の日の後の日である昭和五九年九月六日以降各支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告らの主張

1  請求原因1の事実は、すべてこれを認める。

2  同2の(一)ないし(三)の事実は、いずれもこれを認めるが、なお以下の諸点を付加・補充すべきである。

略球形の骨格は、原告主張の捲回された線条体と、縦方向に等間隔をもつて配された八本の半円弧状の線条体との組み合わせによつて形成されている。

同2の(三)記載の横方向捲回された線条体は、いずれも直線的に斜行しており、その相互の間隔は、狭いところでは右に指摘した縦方向に配された線条体の長さの1/30、広いところではその8/30という不規則・不平等なものとなつている。

3  同3の主張は争う。

本件A意匠の特徴・要部を原告主張のごとく包括的に捉えることは誤りである。本件A意匠の特徴・要部は、捲回された線条体が、周胴面のすべての面において、右のような不規則間隔をもつて、しかも不規則な方向・角度に、直線的に斜行している点にあるというべきである。すなわち、本件A意匠は、照明用グローブにかかる意匠である性質上、周胴面のすべての面が同等に看者の注意をひき、しかも周胴面全体が不可分一体となり意匠を構成しているといえる。このような観点から本件A意匠の特徴・要部を把握するならば、これは、周胴面のすべての面において、捲回された線条体が右のような著しい不規則性をもつて斜行する点にあるというべきである。このことは、本件A意匠が登録された後も、照明用グローブにかかる意匠のうち、捲回された線条体の構成に一定の規則性のあるものは、新らたに意匠登録がされていることからも明らかである。

4(一)  同4の(一)の事実は、すべてこれを否認する。

(二)  同4の(二)の事実は、そのうち、被告会社が昭和四七年七月二〇日ころから同四八年七月末日までの間、業としてイ号物品を製造し、輸出したことと、同五二年一月一日から同年五月一一日までの間に業としてニ号物品を製造し、輸出したことは、これを認めるが、その余の諸点は、これをすべて否認する。

5  同5の冒頭並びに(一)及び(二)の事実は、いずれもこれを認めるが、同(三)の事実は、これを否認する。

イ号物品の意匠における捲回された線条体の構成は以下のとおりである。すなわち、捲回された線条体は、イ号物品一の意匠では周胴面全体の約7/8に相当する部分(三面と1/2)、イ号物品二の意匠では周胴面全体の約3/4に相当する部分(三面)において、二条が等間隔の平行状態を保ち一対となつたものが、右二条の幅に対して約二・五倍の間隔をもつて水平方向に配されている。そして、残りの部分、すなわち、イ号物品一にあつては周胴面全体の約1/8に相当する部分(一面の1/2)、イ号物品二にあつては周胴面全体の約1/4に相当する部分(一面)において、交互に同一方向に向いゆるやかな曲線を描いて規則的に斜行して、右の平行状態を破つているのである。

6  同6の冒頭の主張は、これを争う。

(一) 同6の(一)の事実は、これを否認し、その法的主張は争う。

本件A意匠の構成のうち請求原因2の(一)及び(二)の点は、照明用グローブにかかる意匠にあつては、本件A意匠の登録出願以前から公知公用のありふれた構成であつて、骨格を形成する捲回された線条体の構成において、本件A意匠に新規性が認められたことは被告らとしても争うものではないが、右は、本件A意匠が意匠登録の要件を満していたことを意味するにすぎず、その新規性の故にその権利範囲を広く解すべき理由は全くない。本件A意匠の権利範囲は捲回された線条体の構成が、全体として同一か又は酷似する意匠の範囲に限定して解すべきである。

(二) 同(二)の(1)ないし(3)の事実は、これらをすべて否認する。

イ号物品の意匠における捲回された線条体の構成が、本件A意匠のそれとは明白に異ることはすでに述べたとおりであるが、以下、本件A意匠と対比しながら若干補足する。

(1) すでに述べたように、イ号物品の意匠と本件A意匠は、ともに照明用グローブにかかる意匠である性質上、周胴面のうちの一部分のみを捉えて類似性の有無を判断するのは誤りであつて、周胴面全体が不可分一体となつた線条体の構成全体について、その類否を判断すべきである。

しかして、イ号物品の意匠における線条体の構成は、すでに述べたとおりであるが、周胴面全体の約7/8あるいは約3/4に相当する部分において、二条が等間隔の平行状態を保ち一対となつたものが、右二条の幅に対して約二・五倍の間隔をもつて水平方向に配されており、周胴面全体の約1/8あるいは1/4に相当する部分において、規則的に交互に同一方向に向つて斜行し、右平行状態を破つているというのである。この二要素の組合せからなる線条体の構成がイ号物品の意匠の特徴・要部をなしている。そして、このうち、支配的な要素は、周胴面全体の約7/8あるいは3/4に相当する部分において、二条が一対となつて水平方向に配されている点にあるといえよう。

これに対して、本件A意匠における線条体の構成は、これが周胴面のすべての面において、全く不規則に直線的に斜行しているというのである。

そうとすれば、イ号物品の意匠と本件A意匠とは、線条体の全体としての構成は全く異つているというほかはなく、意匠全体としての類似性は認められない。

意匠公報B

さらに、イ号物品の意匠の構成のうち、周胴面全体の約1/8あるいは1/4に相当する部分において、捲回された線条体が平行状態を破つている点が本件A意匠とやや類似するとしても、右類似点は、六面図全体によつて定まる意匠の中においては、きわめて小さな類似点であるにすぎない。しかのみならず、イ号物品の意匠において捲回された線条体が平行状態を破つている部分をみても、右線条体は、交互に同一方向に向つてゆるやかな曲線を描いて規則的に斜行しているのであるから、この部分においてさえ、線条体が不規則間隔をもつて、不規則な方向・角度に直線的に斜行している本件A意匠の特徴・要部に酷似するなどと評価し得ないことが明らかなのである。

(2) 右(1)にイ号物品の意匠と本件A意匠の差異を指摘したが、これを両意匠が看者に対して与える印象・美感という観点からみてみるならば、イ号物品の意匠は、規則的で調和のとれた日本古来の伝統美を持つた均整のとれた清涼美感を看者に与えるものであるのに対し、本件A意匠は、不規則かつ不調和な前衛的な荒々しい動的な美感を看者に与えるものであるということができ、右両意匠が看者に与える印象・美感も全く異るものであるというほかはない。

(三) 同5の(三)の事実中、本件A意匠類似二号の意匠の構成が、本件A意匠とその構成のうち同2の(一)及び(二)記載の構成を共通にするとの点、捲回された線条体が周胴面四面のうちの一面において右に左に横方向に斜行しており、右各線条体相互の間隔、斜行する方向・角度には規則性がないとの点は、これを認めるが、その余の事実は、すべてこれを否認し、その法的主張は、これを争う。

本件A意匠類似二号の意匠において、捲回された線条体が広狭交互(二条一対)の平行状態となつている部分があるとしても、これは、周胴面のうちのごくわずかな部分におけるものであるし、しかも捲回された線条体が周胴面のすべての面において不規則間隔をもつて、不規則な方向・角度に直線的に斜行しているという構成の中の一部分であるにすぎず、そこには、イ号物品の意匠における線条体の構成にみられるような規則性は認められない。

7  同7の事実中ニ号物品の意匠は、本件A意匠と同じ照明用グローブにかかる意匠であること、その構成が捲回された線条体によつて形成された骨格の上をあさ模様のレース紙によつて覆つてあるほかは、イ号物品の意匠の構成と同様であるとの点は、これを認めるが、その余の事実は、これを否認する。なお、右の否認とは、ニ号物品の意匠における線条体の構成が同5の(三)のごとくであることを否認する趣旨であるが、この点についての被告の主張は同5の(三)に対する反論として述べたところと同旨である。

8(一)  同8の(一)の主張は、これを争う。

ニ号物品の意匠は、昭和五一年一〇月二五日登録番号第四四〇七九四号をもつて登録された被告会社の有する登録意匠であつて、独自の意匠権の対象となる意匠である。かかる登録意匠について、これが本件A意匠と類似しその権利範囲に属するとする原告の主張は法律の解釈を誤る主張であつて主張自体失当である。

なお、本件A意匠と表面地が同一のイ号物品の意匠ですら、本件A意匠とは類似しないことは、同6に対する被告の反論から明らかである。しかしてニ号物品の意匠は、イ号物品の意匠と本件A意匠との相違点に加え、表面地にあさ模様のレース紙を用いている点でも本件A意匠とその構成を異にしている。そして、表面地としてあさ模様のレース紙を用いた構成は、照明用グローブにかかる意匠においては、ニ号物品の意匠においては、ニ号物品の意匠に先行する意匠においては他に類似のないきわめて創作性の高い構成であるうえ、このあさ模様のレース紙はニ号物品の意匠の表面地用紙として被告会社においてデザインし、手漉きで作り上げたものなのである。表面地のあさ模様を、骨格を形成する線条体の形状とともにグローブ内の白熱燈などの発光体によつて鮮明に浮かび出させることに被告会社の創作の意図が存し、ここにニ号物品の意匠の創作性・新規性も認められるのである。このように、イ号物品の意匠におけるのと同一の線条体の構成と表面地としてのあさ模様のレース紙の組み合わせからなる意匠全体に創作性・新規性が認められることはニ号物品の意匠が意匠登録をされたことからみても、あまりにも明らかであろう。

(二)  同8の(二)の主張は、これを争う。

意匠の利用関係とは、ある登録意匠が他人の登録意匠若しくはそれに類似する意匠全部を利用する場合に成り立ち得るのである。しかして、本件A意匠は照明用グローブにかかる意匠であつて、照明用グローブの骨格にかかる意匠ではないのであるから、仮にニ号物品の意匠が、その構成要素である線条体の構成において本件A意匠のそれと類似するとしても、それだけでは意匠の構成要素を一部利用するにすぎず、両者の間に意匠の利用関係が認められないことは明らかである。

ちなみに、ニ号物品の意匠の構成要素である線条体の構成が本件A意匠の構成要素である線条体の構成とは類似のものと評価し得ないことは同6に対する反論としてすでに述べたとおりである。

9(一)  同9の(一)の事実は知らない。

仮に原告と訴外会社間で原告主張の契約が締結されたとしても、訴外会社は、原告に対し、技術指導料、内外における販売活動斡旋手数料、著作権及び商標(アカリ)の使用料等の合計額として、同9の(一)の(2)記載の金員を支払うことを約した趣旨と解すべきである。

ちなみに、照明用グローブの属する分野における工業所有権の通常の実施料率は二%ないし五%である。したがつて、仮に、被告らのイ号物品の製造・販売行為によつて、原告に何らかの損害が生じたとしても、右損害の額は、被告らのイ号物品の売上高に、右通常実施料率を乗じた金額を超えるものであることは、ありえないというべきである。

(二)  同9の(二)の事実は、これを否認し、その算定方法に関する主張は、これを争う。

(三)  同9の(三)の(1)及び(2)記載の被告らのイ号物品の売上高に関する事実は、これをいずれも否認するが、被告会社のニ号物品の売上高は原告主張の売上高を上廻ることはこれを認める。

ちなみに、被告会社のイ号物品の輸出売上高は、昭和四七年分金六六七万六三三四円、昭和四八年分金三七五万三七一九円の合計一〇四三万〇〇五三円にすぎない。

10  請求原因10の事実は認める。

11  同11の(一)ないし(三)の事実は、いずれもこれを認める。

12  同12の主張は、これを争う。

本件B意匠の要部は、捲回された線条体が周胴面のすべてにおいて、不規則間隔をもつて不規則な方向・角度で右に左に斜行している点にあるというべきである。その根拠は、同3に対する反論として主張したところと同旨である。

13  同13の事実中被告伏屋に関する点は、すべてこれを否認し、被告会社に関する点は、このうち、被告会社が、昭和四八年四月二四日ころ、ロ号物品を製造し、これを訴外アポロ産業株式会社に対して販売したことがあることは、これを認めるが、その余の点は、これを否認する。

なお、被告会社は、ロ号物品の意匠につき、昭和四七年七月一三日意匠登録を出願し、右意匠は、同五三年四月二八日、登録番号第四八四四四三号をもつて、一旦は意匠登録をされたところ、被告会社がロ号物品を製造・販売した右昭和四八年四月二四日ころは、右意匠登録出願中であつた。そうすれば、仮に、被告会社のロ号物品の製造・販売行為が、本件B意匠権の侵害行為にあたるとしても、被告会社には、これをするにつき過失がなかつたことが明らかであろう。

14  同14の冒頭並びに(一)及び(二)の事実は認め、同(三)の事実は否認する。

ロ号物品の意匠における線条体の構成は、周胴面四面のうちの三面において、二条が等間隔の平行状態を保ち一対となつたもの八対が、右二条一対の幅に対して約三・三倍の間隔をもつて水平に配されており、その他の一面において、交互に同一方向に向い規則性をもつて斜行して、右平行状態を破つているというものである。

15  同15の主張は、これを争う。

この点に関する被告の主張・反論は、同6に対する反論として述べたところと同旨である。

16  同16の冒頭記載の事実は、これを知らない。そして、同冒頭記載の損害額算定方法に関する主張は、これを争う。

この点に関する被告らの反論は、同9の(一)及び(二)に対する反論として述べたところと同旨である。

同16の(一)及び(二)記載の被告らのロ号物品の売上高に関する事実は、これをいずれも否認する。

ちなみに、被告会社が、昭和四八年四月二四日に、前記アポロ産業株式会社に対し、ロ号物品を販売した際のその売上高は、金五万四一〇〇円にすぎない。

17  請求原因17の事実は認める。

18  同18の事実は認める。

19  同19の事実中、被告伏屋に関する点は、これを認め、被告会社に関する点は、このうち被告会社が昭和四七年一〇月一三日ころハ号物品を製造し、これを訴外三好貿易株式会社に対して販売したことのあることは認め、その余の諸点は、これを否認する。

20  同20の主張は争う。

21  同21の冒頭記載の事実は、これを知らない。そして同冒頭記載の損害額算定方法に関する主張は争う。

この点に関する被告らの反論は同9の(一)及び(二)に対する反論として述べたところと同旨である。

同21の(一)及び(二)記載の被告らのハ号物品売上高に関する事実は、これをいずれも否認する。

ちなみに被告伏屋のハ号物品の売上高は、金九万四三三〇円にすぎず、また、被告会社のハ号物品の売上高は、昭和四七年一〇月一三日、前記三好貿易株式会社にハ号物品を販売した際のその売上高金二万四二四〇円にすぎない。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一本件A意匠権侵害行為について

一請求原因第1項記載の事実は、すべて当事者間に争いのないところである。

二1  ところで、本件A意匠が別紙意匠公報A記載のとおりの照明用グローブにかかるそれであることは当事者間に争いがなく、また、右意匠公報Aによれば、これに示されている本件A意匠の構成が以下のA―1ないしA―3記載のとおりであることはきわめて明らかである。すなわち、

A―1 全体の形状は、その正面・背面及び左右両側面の都合四面(以下、この四面を総称して周胴面ともいう。)において、いずれも多角形状に表われる略球形であつて、上部と下部にはリング状の金具からなる開口部が設けられている。

A―2 右略球形においては、一二〜一三回渦巻状に捲回された一本の線条体がその骨格を形成し、その上に八枚の紡錘形の薄紙(半透明・無模様)が貼り合わされて、これらの薄紙が右骨格を覆つている。

A―3 右の捲回された線条体は、周胴面のすべての面において、右に左にほぼ直線的に横方向をもつて斜行しており、線条相互の間隔は、狭いところでは周胴囲の直径の約1/30、広いところではその約8/30であつて、その斜行する方向と角度には、全く規則性がない。

2  そして、右1に説示した状況に徴すると、本件A意匠は、前記のように捲回された線条体の前説示のごとき不規則な態様の故に、照明用グローブに対して全体として荒く乱れた意匠的効果をもたらすものであることが明らかである。

意匠公報C

三そこで、以下においては、右A―1ないしA―3の構成要素からなる本件A意匠の特徴・要部について検討をすすめる。〈証拠〉を総合すれば、次の1ないし3の各事実を肯認することができる。すなわち、

1  本件A意匠の構成のうちの基本的形状そのものは、本件A意匠の出願以前(昭和三八年三月六日以前)から存在していた公知意匠(照明用グローブにかかる公知意匠)にみられるところであつて、これが普遍的でありふれたものであること、

2 したがつて、このようなありふれた基本的形状を有する本件A意匠の特徴・要部は、前記二のごときその周胴面表面の態様とこれに伴う意匠的効果の点にこれを求めざるを得ないこと、

3  しかして、本件A意匠の出願以前においては、前記A―3の構成のように、照明用グローブの周胴面に捲回された線条体が荒い間隔で横方向に不規則に斜行するというがごとき態様をもつて配された意匠の存在した形跡は、これを全く窺うことができず、したがつて、まさにこの点において、本件A意匠の右構成にその新規性・創作性が認められること、

以上の1ないし3の各事実を肯認することができ、この認定を左右するに足りるような証拠はない。そうとすると、本件A意匠については、その構成のうち前記A―3の点にその特徴・要部があるというべきことはきわめて明らかである。

四しかして、次に、被告伏屋が昭和四六年一月一日から同年一二月末日まで、また、被告会社が同四七年一月一日から同四八年七月末日まで、イ号物品の製造・販売を行つた旨の原告の主張について検討するのに、このうち、被告会社が昭和四七年七月二〇日ころから同四八年七月末日までの間その業としてイ号物品の製造・販売を行つた旨の部分は、当事者間に争いのないところである。そして、〈証拠〉をあれこれ総合すると、被告会社が以下のような経過のもとに昭和四七年七月二〇日ころイ号物品の製造・販売を開始したことを認めるのに十分である。すなわち、

1  被告伏屋は、昭和二八年ころから海外輸出向けの照明用グローブの製造・販売を行つていたところ、同四五年ころから以下(一)ないし(三)記載のような構成にかかる意匠の照明用グローブ(通称「丸型イレギュラー巻」。以下、「丸型イレギュラー巻」という。)を製造するようになり、爾来これに「19F」、「20F」、「21F」、「22F」の商品番号を付したうえ、これらを同被告の商品カタログに掲載するなどしてその販売を行つてきた。

(一) 全体の形状はその周胴面においていずれも多角形状に表われる略球形であつて、その上部と下部にはリング状の金具からなる開口部が設けられている。

(二) 右略球形は、十数回渦巻状に捲回された一本の線条体がその骨格をなし、その上に八枚の紡錘形の薄紙(透明・無模様)が貼り合わされて、これらの薄紙が右骨格を覆つている。

(三) 右捲回された線条体は、荒い間隔で不規則に斜行するという態様をもつて配されている。

2  そして、昭和四七年一月五日、被告伏屋の右個人事業を引き継いで設立された被告会社においても、右商品カタログをそのまま用いて「丸型イレギュラー巻」の製造・販売を行つていたのであるが、同年一月一〇日ころ、原告から、「『丸型イレギュラー巻』の製造・販売行為は、原告の有する本件A意匠権を侵害するものであるから、これを中止されたい。」という趣旨の警告書を受領した。

3  そこで、被告会社は、「丸型イレギュラー巻」の製造・販売を中止する方針を固めて、その代替商品の開発・考案に努めた結果、同年七月ころ、イ号物品の意匠を考案するに至つた。被告会社は、同年七月一三日、イ号物品の意匠と同一の意匠につき、その登録方を特許庁に申請するとともに、同月二〇日ころ、従来のカタログに掲載されていた「丸型イレギュラー巻」の写真上にイ号物品の写真を貼付してカタログの改訂を行うなどして、イ号物品の製造・販売を開始した。なお、被告会社は、イ号物品の販売にあたり、従来「丸型イレギュラー巻」に付していた商品番号「19F」、「20F」、「21F」、「22F」を、そのまま、イ号物品の商品番号として使用した。

以上1ないし3の各事実が認められ、この認定を左右するに足りるような証拠はない。そうとすると、被告伏屋が個人としてイ号物品の製造・販売を行つていたという事実並びに被告会社が昭和四七年七月二〇日ころよりも以前(なお、被告会社が昭和四七年七月二〇日ころ以降同四八年七月末日までの間、その業としてイ号物品の製造・販売をしたことは、前示のとおり当事者間に争いがない。)からイ号物品の製造・販売を行つていたという事実は、結局、これを肯認することができないものというのほかはない。

ちなみに、〈証拠〉によれば、①被告伏屋が昭和四六年一月一日から同年一二月末日までの期間中に商品番号「19F」、「20F」、「21F」、「22F」を付した商品の販売を行つていたこと及び②被告会社が昭和四七年七月二〇日以前にも右各商品番号を付した商品の販売を行つていたことはいずれもこれを肯認することができるけれども、これらの事実から、直ちに、(a)被告伏屋がイ号物品の製造・販売を行つていたという事実や、(b)被告会社が昭和四七年七月二〇日以前にもイ号物品の製造・販売を行つていたという事実を推認するを得ないことは、右1ないし3に認定した事実に徴して明らかというほかはなく、本件にあらわれたあらゆる証拠を精査してみても、右(a)及び(b)の各事実の存在を肯認するに足りるような証拠はない。

五そこで、被告会社が製造・販売したイ号物品の意匠の構成についてみてみると、同意匠が別紙イ号図面一又は二記載のとおりの照明用グローブにかかる意匠であることは当事者間に争いがなく、イ号物品の意匠の構成が以下のイ―1ないしイ―3記載のとおりであることは、右図面自体に徴し明らかである。

イ―1 全体の形状は、周胴面において、いずれも多角形状に表われる略球形であつて、その上部と下部にはリング状の金具からなる開口部が設けられている。

イ―2 右略球形においては、一七〜一八回渦巻状に捲回された一本の線条体がその骨格を形成し、その上に八枚の紡錘形の薄紙(半透明・無模様)が貼り合わされて、これらの薄紙が右骨格を覆つている。

イ―3 右の捲回された線条体は、イ号物品一の意匠では周胴面全体の約7/8に相当する部分(三面と1/2)において、また、イ号物品二の意匠では周胴面全体の約3/4に相当する部分(三面)において、二条の線条が概ね等間隔の平行状態を保つ一対として形成されているところ、このような一対は、右二条の幅に対して約二・五倍の間隔をもつて水平方向に配されている。そして、イ号物品一の意匠では周胴面全体の約1/8に相当する部分(一面の1/2)において、また、イ号物品二の意匠では周胴面全体の1/4に相当する部分(一面)において、線条が横方向にごくゆるやかな曲線を描きながら斜行している。ちなみに、右のように斜行している線条は、周胴面の中央部分付近では交互に概ね同一方向に向かつて斜行しているが、上端部及び下端部付近ではそのような規則性がない。

六そこで、次に、右五に説示したような構成をもつイ号物品の意匠が、はたして、本件A意匠の権利範囲に属し、又はこれと類似するものと認められるか否かの点について検討する。

まず、本件A意匠とイ号物品の意匠とがその基本的形状を同じくするものであることは、前説示にかかる右両意匠のそれぞれの構成を対比することによつて自ら明らかというのほかはない。そこで、右両意匠がこのようにその基本的形状を同じくするものであることを前提としながら、その周胴面表面の態様の類否如何について検討すると、右両意匠は、その骨格をなす線条体の上に八枚の紡錘形をした半透明・無模様の薄紙が貼り合わされて、この薄紙が右の骨格を覆つているものであつて、その表面地が意匠的に全く同様であると認められるのに加えて、その周胴面に捲回された線条体の態様の観点からしても、イ号物品の意匠が本件A意匠と同じくその周胴面において(もつとも、イ号物品の意匠においてはその周胴面の一部分においてである。ちなみに、イ号物品一の意匠では周胴面全体の約1/8に相当する部分、同二の意匠では周胴面全体の約1/4に相当する部分においてである。)右の線条を横方向に斜行させているという点で、イ号物品の意匠は、本件A意匠とその特徴・要部を一部共通にするものというべきである。

なるほど、本件においては、①イ号物品の意匠では、その周胴面のうちの多くの部分(イ号物品一の意匠では周胴面全体の約7/8に相当する部分、イ号物品二の意匠では周胴面全体の約3/4に相当する部分)で、捲回された線条体の二条づつが概ね等間隔の平行状態を保ちながら一対を形成し、しかもこのような一対が右二条の幅に対して約二・五倍の間隔をもつて水平方向に配されている点、②イ号物品の意匠は、線条体の捲回回数が本件A意匠のそれよりも若干多く、線条相互の間隔が本件A意匠に比してやや密である点、③線条の斜行する態様においても、イ号物品の意匠が本件A意匠に比して規則性にとみ、より曲線的である点、以上の三点において、イ号物品の意匠と本件A意匠との間に若干の差異のあることが認められないわけではない。

イ号物件その一

イ号物件その二

しかしながら、以下に認定する1ないし4の諸点に徴すれば、右①ないし③の差異は、そのいずれもが、およそ看者の注意を引くことのできるようなものではなく、右差異点にイ号物品の意匠の特徴・要部を見い出すことはできず、ひつきよう、イ号物品の意匠は、前認定のごとき本件A意匠との共通性の故に、看者に対して、意匠全体として類似した印象を与えるものというべきことが明らかである。すなわち、

〈証拠〉を総合すれば、以下の1ないし4の各事実が認められる。

1  本件A意匠及びイ号物品の意匠と同様の基本的形状を有する照明用グローブの意匠で、周胴面に捲回された線条体の線条が横方向にほぼ等間隔の平行状態をもつて配されているものや、二条がほぼ等間隔の平行状態を保つ一対として配されているものは、イ号物品の意匠が考察される以前から国内及び海外で頒布された雑誌や意匠公報にすでに登載されており、右のような線条体の構成は、イ号物品の意匠が考察される以前からすでに普遍化していたこと、

2  これに対し、周胴面に捲回された線条体の線条が横方向に斜行するという態様の意匠のごときは、本件A意匠の出願以前には他に類例をみないものであつて、このことは、すでに認定・説示したところである。そして、本件A意匠におけるこのような構成こそが斬新で創作性の高いものであると評価できること、

3  本件A意匠に類似第一号ないし第四号の各意匠が付帯することは、前示のとおり当事者間に争いのないところであるが、このうち、類似第二号の意匠は別紙意匠公報Aの2に表わされたとおりであつて、その線条体の構成は、周胴面全体の約3/4に相当する部分で二条の線条がほぼ平行状態を保つて一対を形成しながら概ね等間隔をもつて配されており、その余の約1/4に相当する部分でこれが不規則に斜行しているというものであること、

4  被告会社が昭和四七年七月一〇月イ号物品一の意匠についてその意匠登録を出願したところ、特許庁は、同四九年三月三〇日、右出願にかかる意匠がその出願以前に日本国内において頒布された刊行物である雑誌「家庭画報」一九六九年(昭和四四年)一〇月号一一六頁所載の天井用吊下灯の意匠に類似する旨の理由で、その登録を拒絶する査定をしたこと、この査定は、特許庁昭和四九年審判第四三二七号事件の審判及び東京高等裁判所昭和五二年(行ケ)第四八号事件判決を経て確定したこと、しかして、右査定において引用された右「家庭画報」一九六九年(昭和四四年)一〇月号一一六頁所載の天井吊下灯は、本件A意匠の実施品にほかならないこと、

以上1ないし4の各事実が認められ、この認定に反するような証拠はない。これらの事実と対比しながら前記①ないし③の差異点について検討を加えると、まず、本件A意匠とイ号物品の意匠との間の差異点として一応指摘できる右①の構成は、すでに公知化・普遍化したありふれた構成であるというほかはなく、この構成が看者の注意を引くものであるとはとうてい認められない。そして、イ号物品の意匠における線条体の構成が、右の普遍化した構成と、線条が横方向に斜行するという構成とを組み合わせたものであるという点についてみても、このような構成は、本件A意匠の特徴・要部に右の普遍的構成を組み合わせることによつて容易に作出できるものであるというべきであつて、このような組合せにもイ号物品の意匠の創作性や新規性を認めることはできない。さらにまた、イ号物品の意匠と本件A意匠との間に認められる前記②及び③の差異の点について考察してみても、本件A意匠の特徴・要部ともいうべき構成(周胴面に捲回された線条体の線条が横方向に不規則に斜行するという構成)が創作性の高い斬新な構成であることに照らすと、イ号物品の意匠に認められる前記②及び③のような本件A意匠との差異点は、ひつきよう、本件A意匠のこのように創作性の高い構成を基本としながら、これに些細な改変を加えたものにすぎないものと評価するのほかはない。以上のとおりであるから、本件A意匠とイ号物品の意匠との間に認められる前記①ないし③のような差異点は、いずれも看者の注意を引くものということができないものであつて、これらの差異点にイ号物品の意匠の特徴・要部を見い出すことはできない。そうとすると、イ号物品の意匠は、本件A意匠とその基本的形状を同一にするのに加えて、その周胴面に捲回された線条体の態様の観点からしても、本件A意匠とその特徴・要部を共通にする部分を含むものと結論するのほかはなく、しかも、そのことの故に看者に対して本件A意匠から生ずる印象と共通の印象を与えることを避けることができず、したがつて、イ号物品の意匠が、本件A意匠と比較して前記のような各差異点を具有するからといつて、右イ号物品の意匠が本件A意匠と共通する右印象を越えて看者に対して別異の印象を与えるものであるなどとは、とうてい認め難いものというほかはない。されば、イ号物品の意匠は、本件A意匠の権利範囲に属し、又はこれに類似するものというべきであ〈る。〉

以上のとおりであるから、被告会社がその業として行つたイ号物品の製造・販売が、本件A意匠権を侵害する行為に該当することは明らかである。

七ついで、被告会社によるニ号物品製造・販売の点について検討すると、まず、①被告会社が、昭和五二年一月一日から同年五月一一日までの間、その業としてニ号物品の製造・販売を行つたこと、②右ニ号物品の意匠が別紙ニ号図面記載のとおりの照明用グローブにかかる意匠であつて、該意匠が渦巻状に捲回された線条体で形成された骨格の上をあさ模様のレース紙で覆つてあるということ以外は、イ号物品の意匠の構成(なお、イ号物品の意匠が前示イ―1ないしイ―3の構成からなることは、すでに説示したとおりである。)と同様であることは、いずれも当事者間に争いのないところである。

八それでは、右七のような構成を有するニ号物品の意匠は、本件A意匠の権利範囲に属し、又はこれに類似するものと認められるであろうか。この点について検討すると、ニ号物品の意匠の基本的形状及び周胴面に捲回された線条体の態様(ニ号物品の上記の点に関する意匠の構成が、イ号物品のそれと同一であることは、右七に記載したとおりである。)が本件A意匠に類似することは、前記六に認定・説示したところに徴して自ら明らかである。しかしながら、ニ号物品の意匠は、表面地としてあさ模様レース紙を用いている点で、半透明・無模様の薄紙を用いている本件A意匠との間に明らかな差異があり、ニ号物品の意匠は、あさ模様レース紙をその表面地に用いることによつて、本件A意匠とは、その周胴面表面の外観を異にし、かつそれに伴い異つた意匠的効果をあげていると認むべきであつて、このことは、以下の1ないし3に認定するような諸点に徴して明らかである。すなわち、

〈証拠〉によれば、以下の1ないし3の各事実が認められる。

1  ニ号物品の意匠が考案される以前には、これと同様の基本的形状をもつ照明用グローブの意匠においてレース紙のような特殊な表面地を使用したものは、他に類例がなかつたこと、

2  ニ号物品の意匠は、その用法上当然にその内部に設置される白熱燈などの発光体からの光によつて表面地に織り込まれたあさ模様を浮かび出させることによつて生じる意匠的効果にその創作的意図があること、

3  しかして、表面地の点を除いてニ号物品の前記形状等に関する意匠と同一の構成からなるイ号物品一のそれについては、その意匠登録を拒絶する旨の特許庁の査定が確定していることは前示のとおりであるところ、ニ号物品の意匠については、昭和五一年一〇月二五日、登録番号第四四〇七九四号をもつて、その登録がなされていること、

以上1ないし3の各事実が認められ、この認定を左右するに足りるような証拠はない。これらの事実に照らすと、ニ号物品の意匠には、照明用グローブの表面地としてあさ模様レース紙を用いた点にその意匠の創作性・新規性が是認できるものというをうべく、この点が同意匠の特徴・要部であると認めるのが相当である。そうとすれば、ニ号物品の意匠が本件A意匠とその特徴・要部を異にすることは明らかであつて、ニ号物品の意匠が本件A意匠に類似するものであるとはとうてい認められないものというべきである。

なお、いわゆる「あさ模様」が日本古来の伝統的図柄であることは、〈証拠〉に徴してこれを首肯するのに十分であるが、そのことが、いわゆる「あさ模様」の図柄を織り込んだレース紙を照明用グローブの表面地に用いたという点にニ号物品の意匠の創作性を是認するための障碍となるものではないことは、右認定の1ないし3の各事実に照らしてきわめて明らかであつて、ニ号物品の意匠が本件A意匠の権利範囲に属し、又はこれに類似することを肯認するに足りるような証拠はない。

九しかして、ニ号物品の意匠の登録出願日が昭和五〇年二月一五日であることは、〈証拠〉に徴して明らかであり、他方、本件A意匠の登録出願日が昭和三八年三月六日であることは前示のとおり当事者間に争いのないところであるから、本件においては、さらに進んで、はたして、ニ号物品の意匠と本件A意匠との間には、後願の前者が先願の後者を利用するような関係にあるか否かが検討されなければならないであろう。

ロ号物件

ハ号物件

そこで、この点について考察してみると、一般に、ある意匠αを実施すれば、他の意匠β又はこれに類似する意匠の全部を実施することになり、他面、β意匠又はこれに類似する意匠を実施しても、α意匠の全部を実施することにはならない場合、換言すれば、α意匠が、β意匠又はこれに類似する意匠の構成要素のすべてを自己の構成要素の一部とし、これに新たな構成要素を付加することによつて構成される場合、α意匠は、β意匠又はこれに類似する意匠を利用する関係にあるものと認めるのが相当である。しかし、α意匠がβ意匠又はこれに類似する意匠の構成要素の一部を自己の構成要素としているにすぎず、その他の構成要素を変更・置換しているというがごとき場合には、α意匠がβ意匠又はこれに類似する意匠を利用するような関係にあるとは認められず、この場合には、α意匠は、β意匠又はこれに類似する意匠の構成要素を一部利用するにすぎないものというのほかはない。しかして、前説示の本件A意匠とニ号物品の意匠の各構成を彼此対比してみると、なるほど、ニ号物品の意匠と本件A意匠とがその基本的形状を同じくするのに加えて、ニ号物品の意匠の骨格を形成する線条体の線条の態様もまた本件A意匠のそれに類似していることは、さきに認定・説示したところに徴してきわめて明らかであるが、しかし、ニ号物品の意匠は、前説示のように、本件A意匠と比較してその表面地を異にするものであるから、ニ号物品の意匠は、まさにこの表面地の点において本件A意匠の構成要素である半透明・無模様の薄紙をあさ模様レース紙に置換・変更していることが明らかである。そうとすれば、ニ号物品の意匠を実施しても、そのことは、本件A意匠に類似する意匠の構成要素のうちの一部を実施することになるのにとどまり、本件A意匠又はこれに類似する意匠の全部を実施することにはならないものというのほかはない。その他、本件記録に現れたすべての証拠を精査してみても、ニ号物品の意匠が本件A意匠を利用するものであるという趣旨に帰着する請求原因第8項の(二)記載の主張を是認させるような証拠を発見することができない。

以上のとおりであるから、被告会社がその業として行つたニ号物品の製造・販売行為を目して、これが本件A意匠権に対する侵害行為にあたる旨の原告の主張は、結局これを是認することができないものというのほかはない。

第二本件B意匠権侵害行為について

一請求原因第10項記載の事実は、すべて当事者間に争いのないところである。

二1  しかして、本件B意匠が別紙意匠公報B記載のとおりの照明用グローブにかかるそれであることは当事者間に争いがなく、また、右意匠公報Bによれば、本件B意匠の構成が以下のB―1ないしB―3記載のとおりであることはきわめて明らかである。すなわち、

B―1 全体の形状は、その周胴体が幅対高さの比をほぼ一対一とする直方体の筒状を呈しているほか、同周胴体において、その約二〇分の一の高さをもつた偏平型の四角錐台が上・下方向にそれぞれ突出している。

B―2 右B―1のような全体的形状を呈する照明用グローブにおいては、その全体の形状が正方形を形成するようにほぼ直角に折曲されしかも六〜七回渦巻状に捲回された一本の線条体がその骨格を形成し、その上に半透明・無模様の薄紙が覆つて形成されている。

B―3 右の捲回された線条体の線状は、周胴面のすべての面において、右に左に直線的に横方向をもつて斜行しており、線条相互の間隔や斜行する方向・角度には、規則性がない。

2  そして、右1に説示した状況に徴すると、本件B意匠は、前記のように捲回された線条体の前説示のごとき不規則な態様の故に、照明用グローブに対して全体として荒く乱れた意匠的効果をもたらすものであることが明らかである。

三そこで、以下においては、右B―1ないしB―3の構成要素からなる本件B意匠の特徴・要部について検討をすすめる。

〈証拠〉を総合すれば、次の1ないし3の各事実を肯認することができる。すなわち、

1  本件B意匠の構成のうちの基本的形状そのものは、本件B意匠の出願以前(昭和三八年三月六日以前)から存在していた公知意匠(照明用グローブにかかる公知意匠)にみられるところであつて、これが普遍的でありふれたものであること、

2 したがつて、このようなありふれた基本的形状を有する本件B意匠の特徴・要部は、前記二のごときその周胴面表面の態様とこれに伴う意匠的効果の点にこれを求めざるを得ないこと、

3  しかして、本件B意匠の出願以前においては、前記B―3の構成のように、照明用グローブの周胴面に捲回された線条体の線条が荒い間隔で横方向に不規則に斜行するというがごとき態様をもつて配された意匠の存在した形跡は、これを全く窺うことができず、したがつて、まさにこの点において、本件B意匠の右構成にその新規性・創作性が認められること、

以上の1ないし3の各事実を肯認することができ、この認定を左右するに足りるような証拠はない。そうとすると、本件B意匠については、その構成のうち前記B―3の点にその特徴・要部があるというべきことはきわめて明らかである。

四しかして、請求原因第13項記載の事実のうち、被告会社が昭和四八年四月二四日ころ、その業としてロ号物品を製造したうえ、その若干点数を訴外アポロ産業株式会社に対して販売したことは、当事者間に争いのないところである。そして、〈証拠〉によれば、被告会社が以下のような経過のもとにロ号物品の製造・販売をしたことを認めるのに十分である。すなわち、

1  被告伏屋は、昭和四五年ころから、その基本的形状が周胴面を直方体の筒状とし、その上面及び下面に偏平四角錐台が突出しているという形状であるほかは、「丸型イレギュラー巻」の意匠と同様の構成からなる意匠を実施した照明用グローブ(通称「角型イレギュラー巻」、以下「角型イレギュラー巻」という。)を製造し、これに「16F」、「17F」の商品番号を付したうえ、これらを同被告の商品カタログに掲載するなどしてその販売を行つてきた。

2  そして、昭和四七年一月五日、被告伏屋の右個人事業を引き継ぎ設立された被告会社においても、右商品カタログをそのまま用いて「角型イレギュラー巻」の製造・販売を行つていたのであるが、同年一月一〇日ころ、原告から、「『角型イレギュラー巻』の製造・販売行為は、原告の有するB意匠権を侵害するものであるから、これを中止されたい。」という趣旨の警告書を受領した。

3  そこで、被告会社は、「角型イレギュラー巻」の製造・販売を中止する方針を固めて、その代替商品の開発・考案に努めた結果、同年七月ころまでにロ号物品の意匠を考案するに至つた。被告会社は、同年七月一三日、ロ号物品の意匠と同一の意匠につき、その登録方を特許庁に申請するとともに、同月二〇日ころ、従来のカタログに掲載されていた「角型イレギュラー巻」の写真上にロ号物品の写真を貼付してカタログの改訂を行うなどした。なお、被告会社は、右カタログの改訂にあたり、従来、「角型イレギュラー巻」に付していた商品番号「16F」、「17F」を、そのまま、ロ号物品の商品番号として使用した。

以上1ないし3の各事実が認められ、この認定を左右するに足りるような証拠はない。そうとすると、被告伏屋が個人としてロ号物品の製造・販売を行つていたという事実並びに被告会社が右昭和四七年七月二〇日以前にロ号物品の製造・販売を行つたという事実は、結局、これを肯認することができないものというのほかはない。そこですすんで、右昭和四七年七月二〇日以降同四八年七月末日までの間における被告会社による「16F」商品、「17F」商品の製造・販売実績の点についてみてみると、〈証拠〉によれば、被告会社は、①訴外大名物産株式会社に対し、昭和四七年七月二四日及び同年九月二二日の二回にわたり、商品番号「16F」の商品を売り渡していること、②訴外アポロ産業株式会社に対し、同四八年四月一八日、同「16F」の商品を、同月二四日、同「17F」の商品を売り渡していること、③訴外株式会社松尾商会に対し、同年四月二八日、同「16F」の商品を売り渡していることが認められる。このうち、昭和四八年四月二四日に、被告会社から右アポロ産業株式会社に売り渡された「17F」の商品がロ号物品にほかならないことは、前示のとおり当事者間に争いのないところであるが、その余の部分すなわち、右①ないし③の各販売商品のうちの各「16F」商品については、〈証拠〉を対照しながらあれこれ検討してみると、以上のような事実から直ちに右販売にかかる商品番号「16F」の商品がロ号物品であるとまでは、いまだにわかに速断し難く、また、本件記録に現れたあらゆる証拠を精査してみても、被告会社が、前記昭和四七年七月二〇日以降同四八年七月末日までの期間に、右認定限度を超えて商品番号「16F」又は同「17F」の商品を販売し、あるいは、右「16F」又は「17F」以外の商品番号、就中、右「16F」又は「17F」と他の記号又は数字を組み合わせた商品番号を用いてロ号物品を販売したというような事実を窺わせるに足りるような証拠はない。そうとすると、請求原因第13項記載の事実は、前記の当事者間に争いのない部分を超える部分については、結局これを肯認するに足りるような証拠がないことに帰着する。

五そこで、被告会社が製造・販売したロ号物品の意匠の構成についてみてみると、同意匠が別紙ロ号図面記載のとおりの照明用グローブにかかる意匠であることは当事者間に争いがなく、また、ロ号物品の意匠の構成が以下のロ―1ないしロ―3記載のとおりであることは、右図面自体に徴し、明らかである。

ロ―1 全体の形状は、その周胴体が幅対高さの比をほぼ一対一・五とする直方体の筒状を呈しているほか、同周胴体の上面及び下面において右周胴体の約二〇分の一の高さをもつた偏平型の四角錐台が上・下方向にそれぞれ突出している。

ロ―2 右ロ―1のような全体的形状を呈する照明用グローブにおいては、それぞれ正方形を形成するようにほぼ直角に折曲されしかも渦巻状に捲回された一本の線条体がその骨格を形成し、その上に半透明・無模様の薄紙が覆つて形成されている。

ロ―3 右のように捲回された線条体は、周胴面のうちの三面において、等間隔の平行状態を保つた二条をもつて一対とされたその八対が右二条の幅に対して約三・三倍の間隔をもつてほぼ水平になるように配されている。そして、その他の一面において、交互に同一方向に向かい規則性をもつて斜行している。

六そこで、次に、右五に説示したような構成をもつロ号物品の意匠が、はたして、本件B意匠の権利範囲に属し、又はこれと類似するものと認められるか否かの点について検討してみよう。

まず、本件B意匠とロ号物品の意匠の基本的形状についてみると右両意匠の基本的形状がその周胴面の幅対高さの比を異にするほかは他になんらの差異のないものであることは、前説示にかかる右両意匠のそれぞれの構成を対比することによつて自ら明らかである。しかして、〈証拠〉によれば、照明用グローブにかかる意匠にあつては、周胴面の形状を直方体又は立方体の筒状とし、その上面及び下面に偏平形の四角錐台を突出させているような形状をしたものがつとに普遍化・一般化しているのに加えて、周胴面の幅対高さの比率を変更することもまた早くから常識化していたことが認められる。したがつて、本件B意匠とロ号物品の意匠の各周胴面の幅対高さの比率の点に前記認定の程度の差異があるからといつて、そのことは、看者に対して、意匠全体として異る印象を与えるに足りるようなものではないというべきであつて、その類否判断にあたつて、右の点のごときはもとよりこれを重視すべきではなく、ひつきよう、右両意匠の基本的形状には、とくに取り上げなければならないような意匠的差異はないものと認めるのが相当である。

二号物件

そこで、右両意匠の周胴面表面の態様について検討をすすめると、右両意匠は、いずれも、骨格を形成する線条体の上を半透明・無模様の薄紙で覆つたものであつて、その表面地が全く同様であるのに加えて、その周胴面に捲回された線条体の態様の観点からしても、ロ号物品の意匠がその周胴面四面のうちの一面において本件B意匠と同じく右線条体の線条を横方向に斜行させているという点で、ロ号物品の意匠は、本件B意匠とその特徴・要部と一部共通するものというべきである。もつとも、本件ロ号物品の意匠においては、①周胴面四面のうちのその他の三面では、二条ずつ等間隔の平行状態を保ちつつ一対とせられている八対の線条が、右二条の幅に対して約三・二倍の間隔をもつてほぼ水平に配されている点、②線条体における線条の捲回回数が本件B意匠のそれよりも多く、線条相互の間隔が本件B意匠に比してやや密である点、③線条体における線条の斜行態様が前説示(ロ―3)のように規則性をもつ点、以上の三点において、本件B意匠との間に差異のあることが認められる。しかし、これらの差異点は、すでに説示したイ号物品の意匠と本件A意匠との間の差異の程度を超えるものではなく、しかも前記第一の六において詳細に説示したところに徴すれば、これらの差異がいずれも看者の注意を引くに足りるようなものではなく、右差異点にロ号物品の意匠の特徴・要部を見い出すことができないことはきわめて明らかである。かてて加えて、被告会社が昭和四七年七月一三日、ロ号物品の意匠と同一の意匠につき、特許庁にその登録方を申請したことは前記のとおりであるところ、〈証拠〉によれば、特許庁は、同五三年四月二八日、右意匠につき、登録第四八四四四三号をもつて、その登録をしたものの、右登録は、特許庁昭和五三年審判第一五三五一号事件の審判及び東京高等裁判所(行ケ)第一二四号事件判決を経て、これが本件B意匠に類似する旨の理由で、その無効が確定していることが明らかである。

以上に認定・説示したような事実を併せ考量すると、ロ号物品の意匠は、本件B意匠とその基本的形状をほぼ同一にするのに加えて、その周胴面に捲回された線条体の態様の観点からしても、本件B意匠とその特徴・要部を共通する部分を含むものと結論するのほかはなく、しかも、そのことの故に看者に対して本件B意匠から生ずる印象と共通の印象を与えることを避けることができないものというべく、ロ号物品の意匠が本件B意匠と比較して前記のような各差異点を具有するからといつて、右ロ号物品の意匠が本件B意匠と共通する右印象を越え、看者に対して別異の印象を与えるものであるなどとは、とうてい認め難いものというのほかはない。したがつて、ロ号物品の意匠は、本件B意匠の権利範囲に属し、又はこれに類似するものというべきである。この認定に反する趣旨に帰着する〈証拠〉は、前掲各証拠と対比してにわかに採用し難く、他にこの認定を左右するに足りるような証拠はない。

七以上のとおりであるから、被告会社がその業として行つたロ号物品の製造・販売が原告に帰属する本件B意匠権を侵害することは明らかというべきところ、被告会社は、「被告会社において、ロ号物品の製造・販売を行つた昭和四八年四月二四日当時、被告会社は、特許庁に対し、ロ号物品の意匠と同一の意匠につき、その登録方を申請中であり、しかも右意匠は、昭和五三年四月二八日、登録第四八四四四三号をもつて意匠登録がされた。これらの事実に照らすと、被告会社には、右侵害行為につき過失がない。」旨主張するので、この点について判断すると、被告会社の主張する右摘録の事実関係が認められることは、すでに説示したとおりであるが、しかし、他方、右意匠登録については、右意匠が本件B意匠に類似することを理由とするその無効審決がすでに確定していることもまたさきに認定したところである。そうとすると、被告会社がロ号物品の製造・販売を行つた昭和四八年四月二四日当時、被告会社は、ただロ号物品の意匠と同一の意匠につきその登録方を申請中であつたにすぎないものというべく、しかも、結果的には右申請が認められなかつたことに帰着するのであるから、このような事実に照らすと、ロ号物品の製造・販売が本件B意匠権を侵害するものであることにつき、被告会社に過失がなかつた旨の被告会社の主張は、とうてい首肯し難く、他にこの主張を肯認するに足りるような証拠はない。

第三本件C意匠権侵害行為について

一請求原因第17項及び同第18項記載の各事実は、すべて当事者間に争いのないところである。

二そして、同第19項記載の事実のうち、①被告伏屋が昭和四六年一月一日から同年一二月末日までその業としてハ号物品の製造・販売を行つていたこと、②被告会社が、昭和四七年一〇月一三日ころ、その業としてハ号物品を製造したうえ、その若干点数を訴外三好貿易株式会社に対して販売したこと、以上の点は、当事者間に争いのないところである。しかして、〈証拠〉によれば、被告会社は、昭和四七年一月五日(その設立の日)から同四八年七月末日までの間に使用していたその商品カタログに、商品番号「LF60」を付してハ号物品を掲載していたこと(ちなみに、被告会社が、右「LF60」以外の商品番号、就中、右「LF60」と他の記号又は数字を組み合わせた商品番号をもつてハ号物品を表わすための商品番号として使用していたことを窺わせるに足りるような証拠はない。)、被告会社が昭和四七年一〇月一三日に右三好貿易株式会社に対して商品番号「LF60」の商品を売り渡したこと以外には、右期間中に被告会社から第三者に対してハ号物品が商品として販売されたような形跡がないこと、以上の事実を肯認するのに十分である。そして、請求原因第19項記載の事実のうちの前説示の限度を超える部分(すなわち、前記の当事者間に争いのない部分を超える部分)については、本件のあらゆる証拠を精査しても、これを肯認するに足りるような証跡を発見することができない。

三ところで、本件C意匠(その構成が別紙意匠公報C記載のとおりの照明用グローブにかかるそれであることは、右一に説示したとおり当事者間に争いがない。)とハ号物品の意匠(その構成が別紙ハ号図面記載のとおり照明用グローブにかかるそれであることは、右二に説示したとおり当事者間に争いがない。)とを彼此対比してみると、その基本的形状並びに周胴表面の態様のいずれの点においても、右両意匠が酷似するものであることは明らかというべく、したがつて、ハ号物品の意匠が本件C意匠に類似するという評価を免れ得ないものであることは、きわめて明らかである。

そうとすると、それぞれ自己の業としてハ号物品の製造・販売を行つた被告伏屋及び被告会社の各行為が原告に帰属する本件C意匠権を侵害するものであることもまた明らかである。

第四被告らの損害賠償義務及びその金額

一以上によれば、①被告伏屋がその業としてしたハ号物品の製造・販売行為、並びに②被告会社が、その業としてしたイ号物品、ロ号物品及びハ号物品の各製造・販売行為は、それぞれ、原告のもつ本件A意匠権、同B意匠権及びC意匠権を侵害するものであるから、被告らは、右各侵害行為の故に原告が被つた損害を賠償する義務を免れ得ないものというべきである。

二そこで、右損害の額について、検討すると、〈証拠〉を総合すると、まず、原告と訴外株式会社尾関商会とは、原告が同訴外会社に対して本件A意匠権、同B意匠権及び同C意匠権の通常実施権を許諾する旨の契約を締結していたことを優に肯認することができる。

しかして、原告は、「右契約においては、右訴外会社は、本件A意匠、同B意匠又は同C意匠の実施品もしくはその各類似意匠の実施品を①国内で販売した場合にはその生産原価の三〇%に相当する金額を、②国外で販売した場合にはFOB価格の三〇%に相当する金額を、いずれも右各意匠の実施料として原告に支払うべき旨が約定されていた。したがつて、原告は、通常ならば、本件A意匠、同B意匠及び同C意匠並びにこれらに類似する意匠の実施に関して、右約定に基づく右各意匠の実施料相当の金員を受領できるべき筋合である。」旨主張し、被告らに対し、意匠法三九条二項に基づき、被告らがそれぞれ販売したイ号物品、ロ号物品及びハ号物品のそれぞれについて、その生産原価に三〇%を乗じた金額が被告らによる前説示のような意匠権侵害行為によつて原告の被つた損害の額であるとして、その支払方を請求する。しかしながら、〈証拠〉によれば、右訴外会社は、原告に対し、(ア)本件A意匠、同B意匠及び同C意匠の実施品製造についての技術指導料、(イ)右訴外会社の国内外における右実施品販売活動斡旋料、(ウ)右各意匠権実施料、(エ)商標(アカリ)の使用料等の総計として原告主張の金員を支払うことを約諾したことが明らかである。そして、本件記録に現れたあらゆる証拠を精査してみても、原告の右主張を肯認するに足りるような証拠はない。

ところで、〈証拠〉によれば、照明用器具にかかる工業所有権の実施に対しては、通常、その平均的実施料として、当該実施品の卸売価格の五%に相当する程度の金員が、その工業所有権者に対して支払われる事例の多いことが認められる。このような事実に、〈証拠〉を総合してあれこれ考量すると、原告が、通常、本件A意匠、同B意匠及び同C意匠並びにこれらに類似する意匠の実施を相手方に許容した場合、原告は、その相手方から、これが実施料として、右平均的実施料率を下回らない金員を受領できる立場にあるものと認めるのが相当である。そうすると、原告が被告らに対して意匠法三九条二項に基づきその賠償・支払方を請求しうべき損害の額は、被告らによるイ号物品、ロ号物品及びハ号物品の各売上高に五%を乗じた金額を下回ることがないものと認めるのが相当であつて、この認定を左右するに足りるような特段の証拠はない。

三1  そこでまず、被告伏屋が昭和四六年一月一日から同年一二月末までの期間に売り渡したハ号物品の売上高の点についてみると、右期間中における被告伏屋のハ号物品の売上高が合計金九万四三三〇円を下回らないという限度においては、当事者間に争いがない。しかして、〈証拠〉を総合すると、(ア)被告伏屋は、同被告が右期間を通じて使用していた商品カタログに商品番号「LF60」を付してハ号物品を自己の商品として表示・掲載していたこと、(イ)同被告が右期間中に商品番号「LF60」の商品を販売したその売上高は、合計金九万四三三〇円であること、以上の二点が肯認できるけれども、以上のほかには、本件全証拠を精査してみても、同被告が右認定の限度を超えて商品番号「LF60」の商品を販売し、あるいは、右「LF60」以外の商品番号、就中、右「LF60」と他の記号又は数字を組み合わせた商品番号を使用してハ号物品を販売したという事実を認めるに足りるような証拠はない。そうとすれば、結局、本件においては、被告伏屋によるハ号物品の売上高が前記当事者間に争いのない金額を超えるものであることを認めるに足りるような証拠がないことに帰着する。

2  ついで、被告会社のイ号物品、ロ号物品及びハ号物品の各売上高の点について検討する。

(一) まず、昭和四七年七月二〇日から同四八年七月末日までの期間中における被告会社のイ号物品の売上高が合計金一〇四三万〇〇五三円を下回ることがないという限度においては、当事者間に争いがない。しかして、〈証拠〉を総合すると、(ア)被告会社は、被告会社が右期間を通じて使用していた商品カタログに商品番号「19F」、「20F」、「21F」、「22F」を付してイ号物品を自己の商品として表示・掲載していたこと、(イ)被告会社が右期間中に右各商品番号の商品を販売したその売上高は、合計金一〇四三万〇〇五三円であること、以上の二点が肯認できるものの、以上のほかには、本件全証拠を精査してみても、被告会社が右認定の限度を超えて商品番号「19F」・「20F」・「21F」・「22F」の各商品を販売し、あるいは、右「19F」・「20F」・「21F」・「22F」以外の商品番号、就中、右「19F」・「20F」・「21F」・「22F」と他の記号又は数字を組み合わせた商品番号を使用してイ号物品を販売したという事実を認めるに足りるような証拠はない。そうとすれば、結局本件においては、被告会社によるイ号物品の売上高が前記当事者間に争いのない金額を超えるものであることを認めるに足りるような証拠がないことに帰着する。

(二) 被告会社によるロ号物品の販売については、被告会社が昭和四八年四月二四日、訴外アポロ産業株式会社に対して、同商品を売り渡したことのほかに、他に被告会社が同商品を販売した事実を認めるに足りる証跡のないことは、さきに前記第二の四において説示したとおりであるところ、被告会社から前記日時に右訴外会社に対して販売されたロ号物品の売上高が合計金五万四一〇〇円であることは、〈証拠〉によつて明らかである。

(三) 被告会社によるハ号物品の販売については、被告会社が昭和四七年一〇月一三日、訴外三好産業株式会社に対して、同商品を売り渡したことのほかに、他に被告会社が同商品を販売した事実を認めるに足りる証跡のないことは、前記第三の二において説示したとおりであるところ、被告会社から前記日時に右訴外会社に対して販売されたハ号物品の売上高が金二万四二四〇円であることは、前掲〈証拠〉によつて明らかである。

したがつて、被告会社によるイ号物品、ロ号物品及びハ号物品の売上総額が右(一)ないし(三)に説示した金額の合計額である金一〇五〇万八三九三円となることは計算上明らかである。

四そうとすると、(1)被告伏屋が原告に対して支払うべき本件の損害賠償額は、右三の1に認定したハ号物品の売上高金九万四三三〇円の五%に相当する金四七一七円(ただし、円未満四捨五入)であり、また、(2)被告会社が原告に対して支払うべき本件の損害賠償額は、右三の2に認定したイ号物品、ロ号物品及びハ号物品の売上総額金一〇五〇万八三九三円の五%に相当する金五二万五四二〇円(ただし、円未満四捨五入)であることが明らかである。

五よつて、

1 原告の被告伏屋に対する本訴請求は、そのうち、右四の(1)の金四七一七円とこれに対する本件不法行為の日以後であることの明らかな昭和五九年九月六日以降その支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度においては、その理由があるから、これを正当として認容すべきであるが、その余は失当であるから、これを棄却すべきである。

2 原告の被告会社に対する本訴請求は、そのうち、右四の(2)の金五二万五四二〇円とこれに対する本件不法行為の日以後であることの明らかな昭和五九年九月六日以降その支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度においては、その理由があるから、これを正当として認容すべきであるが、その余は失当であるから、これを棄却すべきである。

以上に説示したところによるほか、なお、訴訟費用の負担については民訴法八九条・九二条本文・九三条一項但書を、仮執行の宣言及び仮執行の免脱宣言については同法一九六条一項・三項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官服部正明 裁判官綿引万里子 裁判官池田德博)

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